こちらもご覧ください。 一般の方向けの研究案内:パチャパチャ蛙、キーキーこうもり、トントンきつつき...
金の波紋です。このページの下側にはさらに6つのアニメーションがあります。
私達のグループは、超短レーザーパルスを使って固体の表面に音波の小さな波紋を生成し、直接観測しました。この音波は表面弾性波と呼ばれます。弾性波の音速は方向によって変わり、特定の方向に大きな弾性エネルギーを伝播するので、点源からの表面弾性波はきれいな波紋の模様となります。このエネルギー伝播方向が一定方向に偏ることはフォノン集束効果と呼ばれています。
表面フォノン(音波の元となっている原子振動をフォノンと呼びます)のアニメーションは1ミクロン(1ミクロン=10-6 m)の横分解能で実時間領域で観察されました。装置の図を示します。
パルス幅1ピコ秒(10-12 秒)の超短光パルスを用いて透明基板上の金属薄膜の表面波を生成・検出します。透明基板を通過した青色の光パルスを照射すると熱膨張が起こり、音波が発生します。縦波の圧縮波が固体内部の方向に伝わるのに対し、表面波は横方向に伝わっていきます。(超短光パルスによるピコ秒超音波の生成・検出もご覧ください。)
表面波の波長は光のスポット径によって決定され、数ミクロンです。この波長は音波の周波数にすると100メガヘルツから1ギガヘルツの領域に対応します。(1秒あたり108〜109 回の振動です。)
検出は光干渉計を使って行われます。赤外線の超短検出光パルスを試料にあて、その反射光を計測することによって、試料表面の動きを調べることができます。試料表面の各点を通るようにレーザー光のスポット位置を走査します。検出光パルスが試料にあたるタイミングを変えながら、この作業を繰り返すと、波紋のアニメーションを撮ることができます。この波紋はとても小さく、表面の移動量はたったの10ピコメートル(10-11 m)程度です。この値は人間の髪の毛の100万分の1よりも小さく、原子の大きさよりもさらに小さいです。
左側の映像をクリックしてください。アニメーションが始まります。 (上のアニメーションと同じ、163 kBの動画です。)
この2つの画像は、厚さ1 mmのクラウンガラスの基板上に膜厚70ナノメートル(1ナノメートル=10-9 m)の金薄膜を蒸着した試料の表面波の波紋です。左側のアニメーションは90ミクロン×90ミクロンの領域の映像で、右の画像は200ミクロン×200ミクロンの領域のものです。この円形の波紋は水面の波紋を連想させます。金薄膜の性質により、小さな(波長の短い)波紋は大きな波紋よりもゆっくりと進み、伝播するにしたがって波紋の幅が広がっていきます。この波長によって波の速度が異なることを分散と言います。
この波紋の形状を分析することにより、薄膜の膜厚を決定でき、試料の弾性的な性質を調査できます。
青色の励起光パルスは、12.5ナノ秒ごとに中心にあたります。実際の表面波の速度は約3000 m/秒です。固体では空気中の音速(330 m/秒)よりも速く進みます。弾性的な歪は、固体内部に表面波の1波長分(約10ミクロン)程度浸透します。表面波は固体内部で各原子を楕円的な軌道で振動させます。
クリックしてください。アニメーションが始まります。(173 kBの動画です。)
このアニメーションは厚さ1 mmのフッ化リチウム(LiF)の結晶上に厚さ50ナノメートルの金薄膜をかぶせた試料の、200ミクロン×200ミクロン領域の波紋の映像です。フッ化リチウムの結晶は立方晶系の対称性を示します。そのため、この結晶を結晶軸(100)方向で切った試料の場合、波紋はきれいな丸まった四角形となります。波紋の形が円形ではないのは、試料が異方的なためです。
この原子サイズの生き物はなにでしょう?画像をクリックしてください。
異方性は、それぞれの原子がバネのように振動できる化学結合によって結びついて結晶格子が作られているために生じます。この結合は振動波(フォノン)を結晶構造内で伝えることができます。バネの強さと原子間の間隔は方向によって異なり、そのためフォノンが伝播するときに、固体の固さやフォノンの伝わりやすさが方向により異なります。これが方向によって音速が異なること(すなわち音速の異方性)の原因です。
クリックしてください。アニメーションが始まります。(286 kBと165 kBの動画です。)
左側の青いアニメーションは、厚さ1 mmの二酸化テルル(TeO2)の結晶の基板の上に厚さ40ナノメートルの金薄膜をつけた試料の150ミクロン×150ミクロン領域の波紋の映像です。TeO2の結晶は正方晶系の対称性を示し、強い異方性を持ちます。この結晶の結晶軸(001)方向の切断面の波紋は強い異方性とその結果として起こるフォノン集束効果のためにとても複雑な形となります。なお、このブルーのデザインはテーブルクロスとして販売しておりません! 右側のアニメーションは、同じものの3次元版です。
3つの種類の弾性波が検出されます。表面波、擬表面波、そして固体内を伝わる縦波弾性波のうち表面と並行に進む成分です。(擬表面波は表面波に似ていますが、損失があり、どの方向でも表面波よりも速く伝わります。)
ほとんどのすべての人たちは、自分のポケットの中に波紋を起こしている結晶を入れて持ち歩いていることを意識していないでしょう。携帯電話の中にその結晶が入っています。表面弾性波が伝わっている小さな結晶は、電話に入ってきた信号を識別するフィルターとして使われています。将来的には、このようなデバイス上の波紋を可視化することで、より優れたフィルターの設計に私達の技術がお役に立てるようになるかもしれません。
真ん中の画像をクリックしてください。アニメーションが始まります。(109 kBの動画です。)
この(真ん中の)アニメーションは、表面波がミクロなピラミッドを通過する様子です。クラウンガラスの基板上にクロム薄膜を140ナノメートルを貼り付けその上に厚さ1ミクロン幅40ミクロンの金のピラミッドを作った試料のものです。(左の図をご覧ください。)金のピラミッドの位置は普通の光顕微鏡の像(右側の図)からわかります。
弾性波の波面が金のピラミッドを透過する時に、屈折が起こり波面が反対に曲がって透過します。(これはピラミッドでの音速は周りのクロム膜の部分よりも遅いためです。)ピラミッドによりどのように波が散乱されるかご覧ください。
左の図をクリックしてください。アニメーションが始まります。(372 kBの動画です。)
このアニメーションはガラス基板上の金薄膜の90ミクロン×90ミクロンの領域で、2つの点源で励起した時に波紋がどうなるかを示しています。2つの点源での励起の仕掛けが右の図です。波がお互いに干渉して、特徴的なパターンを生み出しています。水面上の波紋も、これと同じ種類のパターンとなります。
我々は、実験のみではなく、理論的な計算によりガラスや結晶上の波紋を再現することができました。下の図は実験結果と計算結果をとなりに並べています。白い部分は表面が盛り上がっていて、青い部分は表面がへこんでいる部分です。
この図はクラウンガラスの試料についての実験と理論の比較です。理論にも厚さ70ナノメートルの金の薄膜の効果が含まれています。
フッ化リチウム(100)の試料での比較です。理論には膜厚50ナノメートルの金薄膜の効果は含まれていません。
二酸化テルル(001)面の試料での比較です。理論には膜厚40ナノメートルの金薄膜の効果は含まれていません。理論の図では1つの波面の形のみを示しています。
図をクリックしてください。アニメーションが始まります。(136 kBの動画です。)
この最後のアニメーションは膜厚1 mmの二酸化テルルに膜厚60ナノメートルの金膜をかぶせた試料の、90ミクロン×90ミクロンの領域の波紋の映像です。この(100)方向の切断面では、音速は縦軸と横軸ではことなり楕円形の波面となります。
我々は現在この実験方法を不透明な基板の試料に対しても使えるように改良しました。'Scanning ultrafast Sagnac interferometry for imaging two-dimensional surface wave propagation', T. Tachizaki, T. Muroya, O. Matsuda, Y. Sugawara, D. H. Hurley, and O. B. Wright, Rev. Sci. Inst. 77, 043713-1-12 (2006)の論文をご覧ください。我々は、フォノニック結晶(干渉を利用してある波長の音波を散乱する人工的な周期構造)上の波紋のアニメーション、フォノン導波路やフォノン共振器を含む表面フォノン「光学」の多様な研究を行っております。現在、我々は結晶表面の音波を動的に見ることができます。科学者が光を制御してきたように表面の音波を制御することで、きっと面白い分野が開けてくるのではないかと私達は期待しています。
もっと詳しいことは、論文 'Watching ripples on crystals', Y. Sugawara, O. B. Wright, O. Matsuda, M. Takigahira, Y. Tanaka, S. Tamura and V. E. Gusev, Phys. Rev. Lett. 88, 185504 (2002) や最近の研究発表をご覧ください。