氷中のピコ秒超音波

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一般の方向けの研究案内:パチャパチャ蛙、キーキーこうもり、トントンきつつき」と「超短光パルスによるピコ秒超音波法」のページもご覧ください。

氷は地球上だけでなく、惑星や衛星、彗星など宇宙空間のいたるところに存在しています。地球上に住む我々にとっては、ジュースの氷やスキー場の雪などのほうが身近に感じるかもしれません。ただ、氷は役に立つばかりではなく、時には厄介者としても存在します。例えば、家の窓や飛行機の翼に凍りつくなどですね。これが、科学者の低温実験装置の中で凍りついたとなると、迷惑この上ありません。

我々がもともと考えていた研究は、全く氷に関係がありませんでした。実際やろうとしていたことは、レーザーピコ秒超音波法を使って超伝導体YBCO(イットリウム、バリウム、銅、酸素)の薄膜上に超音波パルスを発生させ、その伝播特性を調べようというものです。

しかし、予想していた超音波パルスのエコー信号の代わりに、我々は何時間もかけてゆっくり変化する奇妙な信号を見ることになります。実際に信号がどのように変化していったか、アニメーションでご覧ください。

上図は18時間かけて測定した、試料の反射率変化のアニメーション(200 kB)です。図をクリックしてみてください。アニメーションが始まります。ただし、10〜15時間の間はレーザーのスイッチを切っていたため、信号はありません。

さて、これはこれまでに発見されていない、全く新しい超伝導体の特性なのでしょうか? もしかしてノーベル賞はすぐそこに!?

長い間頭をかきむしって考えた結果、我々は一つの結論にたどり着きました。それは、試料の表面に非常に薄い氷の膜(最大で1ミクロン(10-6 m))が成長していて、我々はそれを観測しているのだろうということです。

よし、こうなったら氷について徹底的に調べよう! ノーベル賞には遠いけど、北国北海道にある北大グループの研究テーマとしてはなかなか面白いものになるに違いない。というわけで、氷の超音波パルス伝播特性についての我々の研究がスタートしました。

北大のキャンパス内にある氷の厚さは、我々が実験で得られた氷よりちょっと厚いですけどね。

信号を解析することにより、我々は成長している氷薄膜の膜厚をモニターすると同時に、10 GHzもの高い周波数の超音波特性を得ることに初めて成功しました。

ここに、実験結果(上のグラフ)と、実験によく合っている計算結果(下のグラフ)を示します。

これは、超音波パルスが氷中を伝播することによって生じる光反射率の変化を表しています。青色は反射率が増加したことに、赤色は反射率が減少したことに対応します。図をクリックすると、この結果についてのアニメーション(280 kB)が始まります。

実際のところ、20時間もかけて氷薄膜の成長を観測し続けることは、どんな研究者にとってもひどく退屈なものです。

だからといって、実験中に抜け出して遊びに行くわけにはいきません。測定の終わるのを首を長くして待ってみました。

詳しくは、次の論文をご覧ください。'In-situ monitoring of the growth of ice films by laser picosecond acoustics,' S. Kashiwada, O. Matsuda, J. J. Baumberg, R. Li Voti, and O. B. Wright, J. Appl. Phys. 100, 073506 (2006)

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