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私達は、サブピコ秒(10-12 秒よりも短い時間)の時間幅の光パルスを使って、固体の中に非常に短い幅の音波の塊を発生・検出しています。この研究では試料内に伝わっていく音波に注目しています。この音波は、縦波です。つまり、各原子は音波の伝わる方向と同じ方向に振動しています。
縦波音波
これらの図は、ピコ秒の音波パルスが金属や半導体の薄膜内でどのように発生し、検出されるかを時間順に示しています。
時間幅1ピコ秒以下の励起光パルスが不透明な薄膜の表面に照射されます。光のスポット径は、数ミクロン(10-6 m)程度で、試料の表面から深さ約20ナノメートル(1ナノメートル=10-9 m)の範囲が光によって直接暖められます。
波長約50ナノメートル(人間の髪の毛の約1/1000の太さ)、周波数約100 GHz(1011 Hz、人間の耳が聞こえる周波数の10万倍の高音)の音波パルスが試料中に伝播します。このパルスの時間幅はたったの10ピコ秒です。
音波パルスの一部は薄膜と基板の界面で反射して表面に戻って来ます。
音波が表面に到着した時に膨張が起こります。検出光パルスを使い、この膨張や表面付近のひずみを捉えます。場合によって検出に干渉計を使うこともあります。この干渉計は光強度の変化や光の位相の変化を検出できます。(波の位相はその到着時間を反映します。)
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音波が薄膜内を反響するときのエコーを検出します。これは音波のひずみパルスが厚さ200ナノメートルのポリ結晶のクロム薄膜を伝播するアニメーションです。我々は厚さ10ナノメートルから1ミクロン程度の薄膜を使用しています。
これは上のクロム膜での検出光の位相の変化をプロットしたものです。横軸は時間です。このグラフは励起用の光パルス(青色光)と検出用の光パルス(近赤外光)との遅延時間を走査して得られました。
この方法はポンプ・プローブ法と呼ばれています(ポンプは励起、プローブは検出の意味です)。縦波音波の音速(金属や半導体では、約5000 m/s程度)を知っている場合には、エコーの時間間隔から薄膜の膜厚を推定できます。
音波の生成は、光がどのように固体内の電子を非平衡な状態にするか、これらの電子がどのように振舞うか、これらの電子がどのように他の電子や原子によって散乱されるかなど、いくつかのメカニズムに依存しています。この散乱によって試料が暖められ、熱膨張によって音波が発生します。音波の周波数を観ることで、励起された電子との間の基本的な相互作用(電子−電子、電子−格子相互作用)を研究することが出来ます。
例として貴金属の金について述べます。超短光パルスレーザー光を当てると100 GHz(1011Hz)もの高音の音波が発生することを期待するでしょう。しかし、超短時間内の電子の振る舞いのせいで、実際には音波の周波数は10分の1程度に小さくなります。ピッシと言う高い音がドッシと言う低い音になったと言えるかもしれません。これは、金では電子は格子と相互作用が弱く、電子が格子にエネルギーを渡す間に物質中の奥深くまで広がってしまっているからです。('Ultrafast nonequilibrium stress generation in gold and silver', O. B. Wright, Phys. Rev. B 49, 9985, 1994.をご覧ください。)
実際、我々は金での励起電子がエネルギーを緩和する時間τE (< 1 ps)が電子−電子散乱の特性時間τ0、電子−格子散乱の特性時間τS と次のような簡単な関係で結び付けられることを示しました。 τE ∝ τ01/3 τS2/3。 ('Ultrafast nonequilibrium dynamics of electrons in metals', V. E. Gusev and O. B. Wright, Phys. Rev. B 57, 2878, 1998.をご覧ください。)
我々は、他にもいくつかの遷移金属についても音波の生成機構の研究を行っております。クロムやニッケルなどのいくつかの遷移金属では、電子と格子の相互作用は強く、上のデータ−に示すような100 GHzの高音の音波を簡単に作ることが出来ます。('Picosecond acoustic phonon pulse generation in nickel and chromium', T. Saito, O. Matsuda, and O. B. Wright, Phys. Rev. B 67, 205421, 2003)このような金属薄膜は、高音の超音波を発生する変換器のような応用デバイスに役立つことでしょう。
半導体の試料でも似た現象が起こっています。ガリウムヒ素の結晶にパルスを当てて、金のように低音の超音波を検出しました。('Ultrafast carrier diffusion in gallium arsenide probed with picosecond acoustic pulses', O. B. Wright, B. Perrin, O. Matsuda, V. E. Gusev, Phys. Rev. B 64, 081202(R), 2001.をご覧ください。)
この図は、この実験い用いた、薄くスライスしたガリウムヒ素の結晶を示しています。厚みはわずか2.6ミクロンです。
赤い線は、実験結果の一つ目のエコーの光の反射率と位相の変化です。振動波検出する過程での、表面で反射した光と試料内を伝播している音波パルスからの反射光との干渉によって生じています。実際の音波パルスの時間幅は、青い矢印で示していて、表面の運動によって光の位相変化がグラフの上に移動している部分に対応します。
青い点線は、超高速の電子の振る舞いを考慮した理論をエコーの形状にフィッティングしたものです。電子の振る舞いは、金の場合と同様に音波パルスの幅(約30ピコ秒)と周波数(約15 GHz)を決定します。しかしガリウムヒ素の場合は、大部分のひずみを生成するのは熱膨張ではなく、電子自体の運動です。これは半導体の場合には、光励起により電子はバンドギャップを越えるエネルギーを与えられ、すばやく緩和できないためです。(バンドギャップとは電子が存在できないエネルギーの準位のことです。)
我々は、この方法を非常に薄い層を内部にもつ試料にも適用しようとしています。わずか原子数十層分の厚さの半導体の層を試料内部に埋め込んだ、量子井戸とよばれる試料です。量子井戸の場合は、超高速の電子の運動は層に垂直の方向には制限されるので、音波パルスが発生する領域が局所化され、それにより1テラヘルツ(1012 Hz)もの高周波数の非常に幅の狭いパルスが生成されます。この音波の周波数や強度はレーザーの波長を変えることで変化させることが出来ます。この研究はテラヘルツの音波の生成やナノ構造の評価といった新しい手段をあたえてくれるでしょう。('Acoustic phonon generation and detection in GaAs/Al0.3Ga0.7As quantum wells with picosecond laser pulses', O. Matsuda, T. Tachizaki, T. Fukui, J. J. Baumberg, and O. B. Wright, Phys. Rev. B 71, 115330-1-13 (2005)をご覧ください。)
より詳しい研究については最近の研究発表をご覧ください。