超音波の伝搬速度は、硬い物質では速く、柔らかい物質では遅くなります。透明な物質中に超音波パルスを伝搬させて、光を使ってその各時刻での位置を計測することができると、硬さに関する情報が得られます。ただし、計測対象の物質の物理定数は急激に強くは変わらず、物質内部での超音波や光の反射が無視できるとします。
ピコ秒超音波パルスはその空間幅が典型的には0.1 μm以下と可視光の光波長に対して小さく、半透明の鏡のように光をわずかに反射します。この超音波パルスで反射した弱い光は透明物質の表面など他の部分で反射した光と干渉します。その干渉の条件は超音波パルスが伝搬するに従って変わるため、試料の光反射率は非常に弱く高速に振動します。
試料の光の屈折率が既知であり、試料中での超音波の音速の変化に対して屈折率の変化が小さい場合には、この反射率の振動の瞬間的な周波数から音速を求めることができます。我々のピコ秒超音波による動物細胞の3次元イメージングの研究では、この仮定を利用して細胞内の弾性率や超音波の減衰を調べました。
それでは、超音波の音速変化と光の屈折率変化の両方を考慮する必要がある試料の場合にはどのように対処すればよいのでしょうか。私たちは、この課題に対応するための2つの測定方法を開発しました。
一つは複数の角度からの光反射率測定を組み合わせる方法です。光を斜めに試料に当てると表面で光が屈折することによって、音速と屈折率の情報を分離できます。ただし光を複数の角度から斜めに試料に当て、さらにその反射光を検出する光学系はとても複雑なものになりがちです。その問題を解決する方法は、通常は光を極限まで絞るために使う高開口数の対物レンズを、光を斜めに当てることに使うことです。この方法の詳細については、'Time-domain Brillouin imaging of sound velocity and refractive index using automated angle scanning,' M. Tomoda, A. Kubota, O. Matsuda, Y. Sugawara, and O. B. Wright, Photoacoustics. 31, 100486 (2023) をご覧ください。
角度走査の概念図と、対物レンズへのプローブ光入射位置と時刻についての反射率変化のグラフ
もう一つの方法は、特別な形状の試料に対して横の面から光を当てることで屈折率変化の影響を打ち消す方法です。この方法は適用できる試料の制約が強いのですが、未知数が音速の一つになるためより高精度で音速分布を決定できます。この方法の詳細については、'Sound velocity mapping from GHz Brillouin oscillations in transparent materials by optical incidence from the side of the sample,' M. Tomoda, A. Toda, O. Matsuda, V. E. Gusev, and O. B. Wright, Photoacoustics. 30, 100459 (2023) をご覧ください。
横の面からプローブ光を入射する方法の概念図と、時刻に対する反射率変化のグラフ