トポロジカル振動伝搬を2次元ウェーブマシンで見る

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21世紀の物性物理における大きな進展の一つにトポロジカル絶縁体の発見が挙げられます。これは物質内部の結晶構造が続くバルク部分では絶縁体であるが、表面や界面では導電性を示す物質群のことです。電子のバンド構造の解析に、トポロジーと呼ばれる数学が使われているためにこの名前が付いています。

その後、電子だけでなく光や音のような古典的な波動現象に対しても、フォトニック結晶やフォノニック結晶と呼ばれる人工的な結晶構造によって、似たようなことを起こすことができることがわかってきました。これらはトポロジカルフォトニック結晶やトポロジカルフォノニック結晶と呼ばれます。これらの人工構造でも、フォトニックバンドギャップやフォノニックバンドギャップにあたる周波数帯では結晶構造が続く内部に波動が入っていけず、結晶の表面や界面にのみ波動が伝わります。この特徴を応用したトポロジカル導波路は、従来型の格子欠陥を利用した非トポロジカル導波路に比べて、導波路の折れ曲がり部分や構造の乱れの部分でも波が後方散乱されにくいという特徴があることも知られています。

我々は、2次元に拡張したウェーブマシンを開発し、トポロジカル導波路のデモ実験を行いました。

2次元ウェーブマシンのトポロジカル導波路を伝わる振動の動画(3 MB)です。クリックしてください。

この動画において、下の矢印で示した棒を一定の振動数で励振しています。左の振動数 4.20 Hz はフォノニックバンドギャップ外なので、導波路以外の周期内部の部分にも振動が広がっていきます。それに対して、右の振動数 4.66 Hz ではフォノニックバンドにあたり、トポロジカルな振動が導波路部分に添って伝わります。

もともとの1次元のウェーブマシンは、もともとはアメリカのベル研究所にいたJohn Shiveによって開発されたものです。波動の動きが肉眼でも捉えられる程度にゆっくりと大きく動く特徴を持つため、世界中の物理教育の授業で演示に使われています。ウェーブマシンの中心の薄い板を伝わるねじれ振動の速度が、周期的に取り付けられた長い棒の効果によって遅くなります。この棒は振幅を大きく見せる役割も果たしています。

我々の2次元に拡張したウェーブマシンは、レーザーカッターで薄いステンレス板を2次元格子状に切断して、それにねじで固定できる市販の丸棒とおもりを取り付けたもので、カーテンのように上から吊り下げて使います。おもりの配置を変更することで、バンドギャップが同じ2つのフォノニック結晶構造領域の界面にトポロジカル導波路を作りました。

トポロジカル物質の物理は、量子力学や固体物理学におけるベリー位相のような一昔前に物理を専攻した人にとってもなじみのない概念がでてきて、取っつきにくい分野だと思います。しかし、この装置で見えるような振動の伝搬もトポロジーに関連するとなると、勉強する上での敷居が下がるのではないでしょうか。 さらに詳しくは、'Phononic band calculations and experimental imaging of topological boundary modes in a hexagonal flexural wave machine,' H. Takeda, R. Minami, O. Matsuda, O.B. Wright, M. Tomoda, Appl. Phys. Express 17, 017004 (2024) をご覧ください。

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