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私達は、固体表面の機械的、弾性的、熱的性質をとても小さい空間スケール、つまり1ナノメートル(10-9 m)程度の大きさで調べるために、カンチレバーの先についたミクロな探針を振動させて使っています。
一つ目の方法は、超音波力顕微鏡(Ultrasonic Force Microscopy: UFM)と呼ばれていて、原子間力顕微鏡を元にした技術です。カンチレバーの先についた探針を試料表面に接触しながらカンチレバーの根元をメガヘルツ領域(106〜108 Hz)で振動させます。探針と試料間に働く力は探針の位置に対して非線形の関係を持ち、カンチレバー根元に加える振動をキロヘルツの低周波で振幅変調すると、この非線形性より探針の振動に同じ低周波成分が生み出されます。この状態で探針を試料表面に沿って横に走査しながらこのキロヘルツの振動を記録すると、試料の弾性的な性質を反映した像をナノメートルのスケールでとることが出来ます。
この図はシリコン基板の上に成長したわずか高さ15ナノメートルのゲルマニウムの量子ドットを60メガヘルツのUFMで撮った像です。量子ドットが成長するときに生み出されるひずみによる弾性率のわずかな違いも見分けることができます。
現在の研究目標はこの方法をより定量的にすることです。理論的なモデル化によって、対象の試料を計測するときのカンチレバー、探針の大きさ、振動周波数などの測定条件の最適な選択ができます。この方法は、弾性率だけでなく高周波の原子スケールの粘着性や粘弾性にも高感度です。例えば、カンチレバーの動きを記録することによって弾性的な性質と粘着性的な性質の両方を同時に計測する方法を発表しました。('Hysteresis of the cantilever shift in ultrasonic force microscopy', K. Inagaki, O. Matsuda and O. B. Wright, Appl. Phys. Lett. 80, 2386, 2002.をご覧ください。)
私達は、表面下での熱的な性質の変化を画像化する方法も研究しています。光ヘテロダイン力顕微鏡(Optical Heterodyne Force Microscopy: OHFM)は、メガヘルツ周波数で変調された光を試料に照射すると、試料内に熱波を発生することを利用した原子間力顕微鏡の応用です。熱膨張によって試料の表面が振動しますが、その振動振幅は試料の表面下の構造によって決まります。同時にカンチレバーの根元を光変調周波数に近いメガヘルツ周波数で振動させます。カンチレバーの振動周波数と光変調周波数の差周波数成分を検出することによって、ナノメートルの横空間分解能とマイクロメートルの深さ方向の分解能で試料の過渡的な熱膨張の像を撮ることができます。これによって、普通の原子間力顕微鏡では観察できない試料に埋め込まれた層の特質を検出できます。('Local probing of thermal properties at submicron depths with megahertz photothermal vibrations', M. Tomoda, N. Shiraishi, O. V. Kolosov and O. B. Wright, Appl. Phys. Lett. 82, 622, 2003.をご覧下さい。)
これは表面下に埋め込まれた構造を示しています。表面のクロムの層が表面下の直径2ミクロンの穴を隠しています。メガヘルツの熱波の伝播に敏感なOHFMの位相像は、穴の部分の性質の違いをはっきりと検出しています。
OHFMスキャンの方法を示したムービーを下に示します。
クリックしてください。アニメーションが始まります。(960 kBの動画です。)
さらに、私達はこの方法を応用し装置の構成を少し変えることで、数ミクロンの大きさの光スポットの周りの熱膨張を観察しました。 ('Nanoscale thermoelastic probing of megahertz thermal diffusion', M. Tomoda, O. B. Wright, and R. Li Voti, Appl. Phys. Lett. 91, 071911, 2007. をご覧ください。) この方法は下の図に示すように光の入射を試料の裏側から行います。
変形したOHFMのセットアップ。試料は透明なシリカガラス基板上の金属薄膜です。 AOMは光をON/OFFする音響光学変調器の略称です。
原子間力顕微鏡のチップが光スポット上を走査するので、ナノメートルスケールでMHz周波数の横方向への熱拡散を観察することができます。
より詳しいことは、最近の研究発表をご覧ください。