ピコ秒超音波パルスはその空間幅がとてもに小さく、典型的には0.1 μm以下です。このため、現在までその伝播している波形を計測することはできませんでした。我々は2007年に透明な固体中を伝播するピコ秒超音波パルスを記録するトモグラフィ(断層撮影)技術を 'Tomographic reconstruction of picosecond acoustic strain propagation,' M. Tomoda, O. Matsuda, O. B. Wright and R. Li Voti, Appl. Phys. Lett. 90, 041114 (2007) という論文に発表しました。この度、この手法を向上させた結果を発表しました。
直径10 mmの半球形をし、平らな面にはアルミ薄膜を貼ったガラスを試料として使います。近赤外のレーザーパルスでアルミ薄膜中に励起されたピコ秒超音波パルスは、ガラスへと伝播します。そのガラス中を伝播するピコ秒超音波パルスを青色のレーザーパルスで計測します。下図をご覧ください。
ピコ秒超音波トモグラフィの概念図と、各時刻での反射率変化の角度依存性と再構築した超音波パルスの空間分布
半球試料を回転しながら異なった入射角での測定を繰り返して集めたデータセットを、コンピューターアルゴリズムで解析します。これによりガラス中を移動する超音波パルスの形状が出力されます。下のアニメーションをご覧ください。
ガラス中を伝播するピコ秒超音波パルスのアニメーション(254 kB)です。クリックしてください。
3つのグラフがアニメーションで表示されています。Theoryと書かれたものは、各時刻の超音波パルスの波形ををシミュレーションしたものです。Reconstructと書かれたものは、Theoryの波形をもとに本手法を使ってノイズ等が一切ない理想的な状況で、実験と同じ条件で反射率変化の角度依存性から超音波パルスの空間分布を再構築したものです。Experimentと書かれたものは、本手法の実験結果です。
この超音波パルスの周波数は20 GHz程度です。このアニメーションの後半で、小さな2番目の超音波パルスを見つけることができるでしょう。これは、ガラスとアルミ膜の界面で発生した後、アルミ膜の中を一度往復してからガラスへ伝播してきた超音波のエコー(山びこ)です。
この方法は、ピコ秒超音波の形状が伝播中にどのように変化するかを理解するのに役に立つでしょう。さらに詳しくは、'Tomographic reconstruction of picosecond acoustic strain pulses using automated angle-scan probing with visibule light,' M. Tomoda, H. Matsuo, O. Matsuda, R. Li Voti and O. B. Wright, Photoacoustics. 34, 100567 (2023) をご覧ください。