その他の研究

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金属薄膜内の超高速電子ダイナミクス

わずか幅20 fs(10-15秒)のパルスレーザーを使って、クロムやチタンといった遷移金属の薄膜内での電子のダイナミクスを究明しています。レーザーパルス光が金属の表面で吸収された直後には、レーザー光のエネルギーは金属内の電子のみに集められ、まだ結晶格子が熱せられる時間までは経過していません。私達の実験では、結晶格子は冷たいままなのに対し、電子の温度は典型的に急激に数百度上昇します(熱い電子)。下図は試料の反射係数と透過係数の非常に急激な変化を計測する装置です。

下のグラフは、クロムの誘電率(屈折率の2乗)の時間変化です。ガラス基板上に蒸着された厚さ20 nmのクロム薄膜を測定しました。(誘電率変化の実部Δε1と虚部Δε2が示されています。)

電子の温度変化に基づいた理論(点線)は、電子が平衡になっていない非常に短い時間(レーザーパルスが照射されてから100 fs以内)において、実験結果をうまく説明します。('Electron dynamics in chromium probed with 20-fs optical pulses', H. Hirori, T. Tachizaki, O. Matsuda, and O. B. Wright, Phys. Rev. B 68, 113102, 2003をご覧下さい。)

もっと厚い薄膜では、熱い電子は数100 fsの間拡散します。私達は、熱い電子がそのエネルギーを格子に渡すまえに拡散できる距離が何によって決定されるかということや、それが金属のバンド構造によってどのように影響を受けているかということに関心を持っています。このことは、例えば、金属での超短音響フォノンパルスの生成のメカニズムについてより深い理解をもたらしてくれるでしょう。

原子スケールでの振動の実時間イメージング

物理・化学的な過程を支配している原子や分子、クラスターの動きを観察するための理想的な方法は、それらの変位を振動を観察できる時間スケールで連続的に映し出すことです。このためには、単原子の位置をその振動と同じ程度の時間分解能、10-14〜10-11秒でとらえることのできる感度が要求されます。この時間領域での量子力学的な粒子の振動や原子スケール構造の格子の動きは、超短光パルスによってコントロールされた革新的な走査型トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡を使えば可能となるでしょう。

この方法によって、個々の吸着された原子や無機分子、有機分子の振動のイメージングや、アモルファス物質や不純物を含む固体内に局在された振動モードの観察、人工的に作られたナノ構造やメゾスコピック構造の共鳴振動を見ることができるでしょう。適切なフェルト秒の光パルス列を使って、好きな振動モードを選択的に励起したり、下方遷移させることができるようになるかもしれません。将来のエレクトロニクス、光エレクトロニクス、生物医学やナノメカニカルの応用分野に重要な役割を果たすような、原子スケールの制御や試料の特徴づけの全く新しい可能性を、この研究はもたらしてくれるでしょう。

この実験は現在進行中です。

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